「さーわーまーつー・・・。」

「どうした、。」

「私、鳥居さん、きらーい・・・。」

「おいおい・・・。それは八つ当たりだろ?」


私がテーブルにダレながら愚痴ると、正面に座っている沢松が苦笑いしながら、話を聞いてくれた。
今日は私の愚痴を聞かせるために、幼馴染の沢松をファミレスに呼びつけた。・・・もちろん、沢松の奢りで。
って言ったら、沢松に「俺だけ損するだろ?!」と的確なツッコミを入れてもらえたから、少し元気が出た。
それで、「もちろん、私が奢るから、ちょっと来て。」と言い直すと、「別に奢らなくてもいいけど。ま、今から行くわ。」と言ってくれて・・・現在に至る。


「だってー・・・。鳥居さん、可愛いし、優しいし、私と違って女の子らしいしー・・・。」

「・・・それ、全部褒め言葉。」

「だって!鳥居さんの悪い所なんて、思いつかないもん・・・!!あの子、本当にいい子なんだよ?!!」

「わかった、わかった。」

「ほら〜・・・。沢松も鳥居さんの方がいいって思ってんでしょ・・・?」

「そうは言ってないだろ・・・!」

「どうせ、男なんてみんな、鳥居さんみたいな子が好きなんだぁ・・・!!」


私がこんなに鳥居さんに拘るのには、理由がある。
女の私から見ても素晴らしい、この鳥居さんという少女は、私たちのもう1人の幼馴染、猿野天国の彼女になった人物。
完全に、天国には勿体無い!!・・・と誰もが思っている。だって、あの年齢=彼女居ない歴の天国だよ?!しかも、エロバカ天国の彼女だよ?!絶対、鳥居さんが危ない・・・!!
ということはない。あのエロバカは本当に好きな子のことは大事にするタイプだ。そんなことは幼馴染の私たちはよく知っている。
だからこそ、鳥居さんに拘る。・・・いや、鳥居さんじゃなくても、天国の彼女だから拘る。

何を隠そう、私はそのエロバカ天国が好きだった。・・・エロバカなのに、ね。
でも、アイツもそれだけじゃない。本当は、すごく熱い心を持った奴で、すごい優しい奴だ。
家の事情で苦労しても、それを全く表に出さず、周りに心配をかけないように、奴はバカを演じていたのだとさえ思う。・・・いや、まぁ本当にバカな部分もあるんだけど。
それすらも可愛いと思うぐらい、私は昔から奴が好きだった。


が素直にならないからだろ・・・?」

「うるさい・・・。素直になんて、なれるわけないでしょうが。・・・気持ち悪い。」

「自分で気持ち悪いって、なぁ・・・。」


また沢松が苦笑いをしている。その気持ちもよくわかる。本当に私は素直じゃない。
幼い頃から、フラれまくる天国を見ては、私と沢松は爆笑しまくっていた。・・・だって、私は天国を取られたくないから。沢松には当時から相談していたから、一緒に笑ってくれていたのだと思う。
あんなエロバカの隠れた良さなんて、誰も気付きやしない。そう思っていた。
なのに。高校に入れば、彼女の鳥居さんと空手部の遊神さんって人に告られてるし。
まぁ、遊神さんは力に惚れたって感じだったから、問題無いと私は思っていた。でも、鳥居さんは違う。彼女は天国の内面の良さを見抜いていた。
・・・だから、彼女はいい子なんだ。天国のバカな表面だけじゃなくて、ちゃんと理解してあげてて・・・。それで、好きになるなんて、本当に素晴らしい子だ。
私だって、昔から天国を知っているから、好きだと思えただけで、高校に入ってから会っていれば、絶対に友達にもなりたくなかったと思う。


「その割に、天国のためにマネージャー業も頑張ってたじゃねぇか。」

「うるさい・・・。」

「ハハハ。」


沢松が私をからかうように、そう言った。・・・ありがとう。元気付けようとしてくれてるんだね。そんなことも幼馴染に言えない私は、やっぱり素直じゃない。


「あれは、若気の至りよ・・・。」


お礼の代わりに、そんな言葉を返す。でも、本当にあの頃の私は馬鹿だった。
それまで、天国がスポーツ嫌いだったから、野球のことなんて何も知らなかった。それでも、沢松に天国が野球部に入るかもしれないと聞いて、一生懸命勉強して、マネージャーになれるよう自分を売り込みに行った。
その努力が報われて、マネージャーになれたわけだけど。別に天国との接点が増えるでもなく、ただ近くで見守ることしかできなかった。
それでもいいからと、私は今までマネージャー業に手を抜いたことはなかった。・・・本当に愚かね。


「でも、今更辞めるのか?」

「鳥居さんと一緒にやるのも気まずいしねー・・・。」

「何なら、報道部に推してやろうか?」

「そうねぇー。・・・でも、結局、野球部に関わっちゃうじゃん。」

「いや、俺ら野球部以外もやってるし。」

「マジでー?!あんま、知らなかったわぁ!」

「報道部を何だと思ってるんだよ・・・。」

「冗談だよ、冗談!・・・でもさ。鳥居さんも天国も、私の気持ちは知らないわけじゃない。それなのに、急にマネージャーを辞めるなんて言い出したら、優しい2人に心配かけちゃうと思うんだ。だから、何とかマネージャーを続けるつもり。」

はそれでいいのかよ?」

「ん〜・・・、何とか。まぁ、野球部には素敵な先輩もいるし、犬飼くんや司馬くんとかカッコイイ子もいるし、その人たちを狙うって手もありよねー!」


相変わらず、テーブルに凭れかかりながら、私はそう言った。
何故だろう。無性に情けない気分になった。今の私は強がっている。でも、強がりきれてないから・・・?
よくわからないけれど、せっかく明るくしようと思っていたのに、だんだん悲しくなって、涙が出てきてしまった。


「おい、?!」

「あぁ〜・・・。ごめん。何か泣けてきた。」


そう言って、沢松の方を見ると、沢松は困ったように頭を掻いた。・・・ごめん。
しばらく考えた後、沢松は私の頭をよしよしと撫でてくれた。その優しさが嬉しくて、涙が止まらなくなった。


「とりあえず、泣き止めって。俺が泣かせたみたいだろ・・・。」

「沢松が泣かせたんだよぉ〜・・・。」

「何言ってんだよ?!どう考えても、俺じゃないだろ!」


また的確にツッコミを入れてくれたから、私は少し笑った。


「沢松の優しさに嬉し泣きしてんのよ。」


そう言うと、また沢松がどうすればいいのか、っていう顔をしていた。
本当、沢松もいい奴。ずっと、ずっと迷惑ばっか掛けてんのに。・・・ありがとね。
こうやって聞いてくれてる沢松のためにも、早く泣き止んで、元気にならないと。なんて思っていたら。


「あれ?さんに、沢松さん・・・?」

「え?!うわ!本当だ・・・!凪さん、しーっ!!」


そんな可愛らしい声と聞き慣れた声がした。


「天国・・・!!それに、凪ちゃんも・・・。」


沢松も驚いている。私も泣いていたのがバレないように、急いで顔を背けた。


「奇遇ですね!」

「つーか、何・・・。お前ら、俺に内緒でそーゆー関係だったわけ・・・?」


相変わらず可愛いことを言う鳥居さんに、相変わらず腹が立つことを言う天国。
私は涙を拭いて顔を上げ、天国に否定をしようとしてた沢松も遮って言った。


「そんなわけないでしょ!天国に鳥居さんは勿体無いから、幸せクラッシャーの名に懸けて、邪魔する作戦を考えてたのよ。ね、沢松♪」

「あ、あぁ・・・。」

「何だとー!たしかに、勿体無いとは思うけど・・・!!そんなことは絶対させねぇからな!!」


何よ、ムキになっちゃって。そんなに幸せですかー?っての。


「鳥居さんも危なくなったら、すぐに相談してよ?即行で、清熊さんと天国を絞めるから!」

「なんで、そんな強敵も連れてくんだよ?!」

「ふふ。大丈夫ですよ。こう見えて、猿野さんは・・・。」


鳥居さんが天国の良さを語ろうとした。そんなのいい。聞きたくない。それに、悪いけど。私の方が天国の良さを知っている。昔から、アイツを知ってるんだから。


「いいよ、いいよ!!そんな話。鳥居さんにそんな可愛く言われたら、幸せクラッシャーの威力が半減しちゃうから!」

「だから、壊すなって!!」

「うっさい、天国!とりあえず、今日はまだいい作戦が思いついてないから見逃してやるわ。まぁ、楽しみにしておくことね!行こう、沢松。」

「お、おう・・・。」

「もう2度と俺たちの前に現れるなー!」

「相変わらず、仲がいいんですね。」


当たり前でしょ?私と天国、そして沢松は、小さい頃からの友達なんだ。
だけど、もう鳥居さんの顔も、天国の顔も見たくなくて、私は見向きもせずに、その場を立ち去った。


さん、また明日!」


私の後姿に、まだそんな可愛いことを言っている鳥居さんに向かって、私は何も言えず。ただ、前を見て歩き続けたまま、背中越しに手を挙げた。
・・・こういうのは、こういうところで使うもんじゃないし。それに、こういうのは男がやった方がカッコイイんだけどね。


「何だよ、凪さんが挨拶してんのに・・・。格好つけたつもりか!」


そんな天国のツッコミが聞こえる。どうせ、鳥居さんは天国の横で、可愛く笑ってんだろうね。
そう思いながら、天国の言葉は無視して、その店を出た。
そして、その店の横にあった脇道に急いで入り、私は手を握り締めて、たまたまそこにあった電柱を右手で殴った。
これは誰に対しての怒りなんだろう?
想いをわかってくれなかった天国?それとも、天国を奪った鳥居さん?それとも、こんな醜い感情を持つ私?
・・・その答えは簡単だ。こんな醜い感情を持つ私が自分自身を責めるわけがない。ましてや、好きな奴を責めるわけがない。そうなると、2人目の鳥居さんだ。
本当、情けない奴。


・・・。」


後ろで、沢松が心配そうに、そう呟いた。
そうだ。今日は沢松を何度も困らせてしまった。・・・いや、今日だけじゃない。
それに、沢松だけじゃなくて、天国や鳥居さんに、八つ当たりしていることもある。
私は悔しくなって、更に手の力を入れて、目もギュッと閉じた。
そして、笑顔を作ってから、振り返った。


「ごめん、沢松。この店で何も頼まずに出てきたから、奢ることができなかったね。次、どっか行こっか?そこで奢るわ。」

「・・・・・・・・・。」

「どしたの、沢松。奢ってほしくないの?今なら、沢松の好きな吉牛でもいいよ!」

「今は、そんな食欲はねぇよ。」


やっと、ツッコんでくれた沢松だったけど、いつものようなキレは無かった。


「なんでよー?折角、この様が奢るって言ってあげてんのに。」

「大体、さっきも別に奢っていらねぇって、言っただろ?」

「あらら。勿体無い・・・。こんな機会、もう無いわよ?」

「いいって。」


そう言いながら笑った沢松は、全然楽しそうじゃなく。また苦笑いという感じだった。
・・・そうだよね。ごめんね、沢松。


「そう?まぁ、いいか。そろそろ、私帰るよ。沢松は?」

がいいなら、俺は帰るけど?」

「あ〜、そうだよねぇ・・・。急に呼び出してごめんねー?明日から、お互いに部活頑張りましょーや。」

「あぁ。・・・。また、いつでも呼び出してくれていいからな?」

「うわぁ・・・。沢松、気障ー・・・。」

「なんで、そうなんだよ?!」

「ハハ、冗談だって!マジで感謝してるって!それと、今日の奢りの有効期限はあと1週間ぐらいなら延ばしてやってもいいから、考えとけよ!それに、沢松も何か困ったことあったら言ってよ?今度は私が力になってやる!そんじゃ、またね。」


私はそう言って走り去り、少し離れた所で、もう1度振り返って、沢松に手を振った。沢松も、また困ったような笑顔で手を振り返してくれた。
その沢松を見て、私も早く天国のことは吹っ切らなきゃ、とあらためて思えた。・・・だから、沢松、ありがとう。これからも、ずっと3人仲良くして行こうね?









沢松視点(沢松夢)



 

久々ミスフル夢、かつ初猿野夢でございます・・・(笑)。
今更すぎて、この作品を書くために、コミックの一部を読み返したり、「球春白書」を読み返したりしました・・・(苦笑)。でも、キャラ掴めてません・・・orz
だけど、猿野くんは結構好きなのですよ!それで、ドラマCDで猿野くんを演じていらっしゃる関智一さんのおかげで、もっと好きになったんですが。猿野くんはずっと凪さんが好きそうで、最終的には付き合っちゃったので、こんな話が出来上がっちゃいました!(笑)

それにしても、ドラマCDのキャストは豪華・・・!!まぁ、だからこそ買ったんですが(笑)。
私、元々沢松くんも好きなのですが、これまたドラマCDの影響で更に好きになりましたよ。だって、緑川さんって・・・!!
そんなわけで、沢松くんの視点での話「I love you. You love him.」も書いたので、それも併せてご覧いただけると嬉しいです。

('08/02/22)